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水戸地方裁判所 平成6年(ワ)657号 判決 1995年11月22日

原告

櫻岡亨

ほか三名

被告

吉沢真樹

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告らに対し、各金一六九万〇二九七円及びこれに対する平成五年一一月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その四を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は第一項につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは連帯して、原告らに対し、各金四〇九万一五七六円及びこれに対する平成五年一一月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、九四歳の被害者が交通事故により右前頭部裂創等の傷害を負つて入院中に死亡したことにつき、右事故と死亡との間の相当因果関係が争われた事案である。

一  (争いのない事実等)

次の事実は、括弧内に証拠を掲記したものは当該証拠によつて認められる事実であり、その余は当事者間に争いがない事実である。

1(当事者)

原告らは、亡櫻岡一郎(明治三二年六月一九日生まれ、平成六年四月一日死亡)の相続人である実子六名中の四名である(甲第二、第三号証)。

2(事故の発生)

(一)  事故発生日時 平成五年一一月一五日午後二時五〇分ころ

(二)  事故発生場所 久慈郡大子町北田気四五四―三所在津浦運送店前国道一一八号線上

(三)  加害者 被告吉沢真樹(運転車両:被告東部運送株式会社保有普通貨物自動車 新潟一一か五一八一)

(四)  被害者 亡一郎(当時九四歳)

(五)  事故態様 亡一郎が国道一一八号線を自転車で走行中、後方から進行してきた加害車両が道路中央に寄つて右自転車を追い越そうとしたところ、対向車が来たため、走行車線に戻つた際、同車左後方部分を亡一郎運転の自転車に衝突させて転倒させた。

3(責任原因)

被告吉沢真樹につき民法七〇九条

被告東部運送株式会社につき自賠法三条

4(亡一郎の治療経過等)

(一)  亡一郎は、本件事故により、頭部打撲症、右前頭部破裂創、右前腕剥皮創の傷害を負い、同日直ちに救急車で保内郷厚生会保内郷病院に運び込まれ、同病院に入院した。

(二)  亡一郎は、同月一九日、医療法人久仁会久保田病院に転院した。

(三)  亡一郎は、平成六年四月一日死亡した。

5(争いのない損害額)

(一)  保内郷病院における治療費中一五万五一六〇円

(二)  久保田病院における治療費中一万三八八〇円

(三)  入院雑費三万四四〇〇円(平成五年一一月一五日から同年一二月二七日までの四三日間分につき一日八〇〇円の限度で当事者間に争いがない。)

(四)  事故証明書作成費用一二六〇円

6(争いのない損害填補額)

新潟地方交通共済協同組合から、亡一郎の治療費として保内郷病院に一万円、原告らに対して三〇万円が支払われた。

二(争点)

1 亡一郎死亡と本件事故との因果関係

(一)  (原告らの主張)

亡一郎は、本件事故当時九四歳と高齢であつたが、毎日一五キロのサイクリングをし、元気に日常生活を送つており、とくに二一世紀まで生きるとの決意を持つていた。亡一郎は、肝機能、コレステロール、中性脂肪の検査値に異常もなかつた。同人の多発性脳梗塞は、入院、加療の必要もないもので、亡一郎の死亡との間に因果関係はない。亡一郎は、本件事故により入院したことによつて生活が変わり、高齢で体力が弱つてしまい、その結果、肝機能障害、腎不全、肺炎等を発症し、急性腎不全で死亡したものである。

(二)  (被告らの反論)

(1) 亡一郎は、本件事故により、頭部裂創、右前腕剥皮創等の傷害を負い平成五年一一月一五日から同月一九日まで保内郷病院で、創の処置を受けた後、同日、久保田病院に転院した。同病院で包帯交換の処置を受け同月二七日本件事故による傷病は治癒したものの、同年一二月三日、同人が創部をかきむしつたため、再治療となり、同月二七日完全に治癒した。

(2) 亡一郎は、保内郷病院での頭部CT検査の結果、外傷による出血等の所見はないものの、梗塞、萎縮等の所見が発見され、付添いの都合上、平成五年一一月一九日、久保田病院に転院した。そして、同病院で多発性脳梗塞の診断がなされ、グリセオール、カルジオクローム等の投薬治療を受けたが、同年一二月二八日気管支肺炎、平成六年一月一五日肝機能障害、腎不全をそれぞれ併発し、同年四月一日に死亡した。

(3) 亡一郎が本件事故によつて負つた頭部(顔面)裂創は、それ自体としては入院を要する傷病でなく、これに対する治療は包帯交換のみで、同人が創部をかきむしるという行為をしなければ、本件事故後二週間で治癒する程度の傷病であつた。かかる頭部(顔面)裂創が直ちに死因となるものとは到底考えられないから、頭部(顔面)裂創と死亡との間に直接の因果関係はない。

(4) 亡一郎の死亡の原因は、入院中に身体機能が低下し、これにより気管支肺炎、肝機能障害、腎不全の合併症を起こしたことであるが、亡一郎の本件事故による受傷は軽微なものである一方、その一か月半後に併発した腎不全が亡一郎の直接の死因であり、腎不全を招来した最も重要な疾患、入院の原因となつた精神、神経症状の原因は、私病である多発性脳梗塞であつて、多発性脳梗塞と本件事故との間には因果関係がない。

(5) したがつて、本件事故による受傷及びこれに対する治療のための入院が、全身機能の低下を招いたということはできず、本件事故と亡一郎の死との聞の相当因果関係は否定されるべきである。

2 損害額

(原告ら主張の損害等)

(一)  治療費 二〇五万九八四〇円

保内郷病院分 一五万五一六〇円

久保田病院分 一九〇万四六八〇円

(二)  付添看護婦費用 六六万九八七七円

本件事故により寝たきりの入院生活を余儀なくされ、付添看護婦が必要となつた。看護婦の付添い費用として六六万九八七七円を支払つた。

(三)  入院雑費 一七万九四〇〇円

入院期間は、平成五年一一月一五日から平成六年四月一日までの一三八日間であつた。一日一三〇〇円×一三八日=一七万九四〇〇円の算式により、入院雑費は、一七万九四〇〇円が相当である。

(四)  立証のための必要費 六二六〇円

事故証明書二通作成に要した費用 一二六〇円

死亡診断書一通作成に要した費用 五〇〇〇円

(五)  入院慰藉料 一八二万〇〇〇〇円

(六)  死亡慰藉料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

前記のように、亡一郎は、本件事故に遭うまでは至つて健康で、二〇〇〇年まで生きる目標を持つており、一〇〇歳を超えることは十分実現可能だつた。日本は世界に冠たる長寿国であり、平成六年厚生白書によれば、男子の平均寿命は七六・〇九歳であり、全国高齢者名簿によれば、一〇〇歳以上の男子高齢者は全国で一〇九三名いる。一〇九三名は多い数字とはいえないかもしれないが、むしろ、それは、数少ない栄誉に預かれることに大きな価値があることをこそ意味する。かかる大きな目標が達成可能であつたにもかかわらず、それを達成できなかつた亡一郎の無念さは、察するに余りある。

(七)  葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(八)  損害の填補 二五八万五九二〇円

前記争いのない損害填補額三一万円のほか、国民健康保険から、保内郷病院に対し一〇万五三一〇円、久保田病院に対し一七五万六五五〇円が支払われ、また、大子町から、老人保険看護料として四一万四〇六〇円が支払われた。

(九)  原告ら各自の請求額

(1) 右(一)ないし(七)の合計二五九三万五三七七円から右4の二五八万五九二〇円を控除すると、二三三四万九四五七円となる。原告らは、各六分の一に当たる三八九万一五七六円の損害賠償請求権を相続した。

(2) 原告らは、原告ら訴訟代理人との間で着手金として八〇万円、報酬として原告らの受けた経済的利益の五パーセントを支払う約束をした。このうち八〇万円が損害として相当である。右弁護士費用八〇万円は原告らが各自四分の一ずつ負担するから、二〇万円が各自の損害となる。

(3) よつて、原告ら各自の請求額は四〇九万一五七六円となる。

第三当裁判所の判断

一  前記争いのない事実に証拠(甲第一、第四、第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし六、第八ないし第一三号証の各一、二、第一四ないし第一九号証、第二二ないし第二八号証、乙第一号証の一、二、第二号証の一ないし三、証人藤原眞澄、原告櫻岡亨本人、弁論の全趣旨)を総合すると次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

1  亡一郎は、明治三六年六月生まれであるが、千葉高等園芸専門学校卒業後農業をするなどした後、戦後は食料事務所に勤務して大子出張所長を務めた後、昭和三二年(五七歳)ころ退職し、大子町の教育委員、老人会長、納税貯蓄組合長等を務め、サイクリングを趣昧にするようになり、午前と午後それぞれ二時間ほどかけて一日約一五キロのサイクリングをすることを日課とし、極めて健康体で、八〇歳ころまでは平行腕立をしてみせることもあり、平成元年ころには、健康な高齢者としてテレビ放送で紹介されたこともあつた。本件事故前には、多少老人性痴呆の傾向にあつたが、新聞も読め、同町内の自分より高齢の者の家を自転車で訪問するなど元気に生活しており、本件事故当日も午前中に、自転車で右の一〇四歳の友人方を訪れていた。

亡一郎は、平成三年四月一日に自転車で走行中河原に転落し、胸部・臀部打撲の傷害を負い、久保田病院で藤原眞澄医師の診療を受け、右股関節の痛みを訴えて同月一四日まで二週間入院したことがある。当時の血液検査結果と本件事故前である平成五年六月の同検査結果と本件事故後入院した当時の検査結果を対比しても、本件事故当時のそれが外傷による炎症反応を示しているほかは、同じ程度のものであり、亡一郎は、年齢からすると健康な状態であつたとみてよい。

2  本件事故は、平成五年一一月一五日午後二時五〇分ころ、当時九四歳の亡一郎が久慈郡大子町北田気四五四―三所在津浦運送店前国道一一八号線の路上を自転車で走行中、後方から進行してきた被告吉沢真樹運転の加害車両が道路中央に寄つて右自転車を追い越そうとしたところ、対向車が来たため、走行車線に戻つた際、同車左後方部分を亡一郎運転の自転車に衝突させて転倒させたものであり、亡一郎は、本件事故により、頭部打撲症、右前頭部裂創(二か所)、右前腕剥皮創の傷害を負い、同日直ちに救急車で保内郷病院に運び込まれ、同病院に入院した。

3  当日、保内郷病院における診察に際し、亡一郎は、氏名、住所等は言えるものの、受傷時前後のことを憶えておらず、自分がなぜ入院しているのか分からない状態になつていた。頭部裂創については、創処理真皮縫合が行われた。入院させて経過を診ることになつたが、病室に入ると嘔吐し、翌朝まで嘔吐が続き、眠らず、食事も摂取できなかつた。

頭部CT検査の結果、脳に萎縮はあるものの、出血等の外傷性の所見はなかつた。亡一郎の受傷の程度につき、翌一六日の保内郷病院医師桜山拓雄作成の診断書によると、約三週間の入院加療を要するものと診断されている。また、同年一二月一五日付の同医師の診断書によると、「傷病名」は、「交通外傷(頭部裂創、右前腕剥皮創)」とされ、「初診時の意識障害」は、「なし」、「初診時における主たる既往症および既往障害」も「なし」とされている。

4  その後、創の処置を続け、同病院には同月一九日まで入院したが、意識状態が低く、ベツドから起き上がつたりするなど、一部精神神経症状を示し、同日、付添いの都合上、久保田病院に転院した。

5  同月一九日転院した久保田病院においては、当初の「傷病名」は縫合済みの「頭部裂創」を除き、「右前腕打撲・表皮剥離、右下肢打撲・皮下出血、顔面擦過傷」とされ、「初診時の意識障害」は「なし」、「初診時における主たる既往症および既往障害」は「あり(経年性脳梗塞)」とされている。右脳梗塞は、CT画像上、所々に脳の軽度の萎縮、血流障害が認められることなどから診断される多発性脳梗塞であり、それ自体としては入院加療の必要はない程度のものであつた。しかし、痴呆様の前記精神神経症状が続いており、通院に困難のあることから入院させることになり、入院を要する期間は三週間程度と判断された。

なお、前記裂創、擦過傷等の創は、久保田病院転院後通常一〇日ほどで治る程度のものであり、老入のため経過が遷延しても、創の治癒経過としては良好であつた。

6  久保田病院に転入院した亡一郎は、創に対する治療のほか、不眠に対する投薬やグリセオール、カルジオクロームといつた脳梗塞に対する治療薬の点滴投与等の治療を受けていたが、入院中に身体機能が低下していき、同年一二月七日の診断記載によると既に独力での日常生活が困難とされ、食事、排泄等の日常的ケアーが必要となつており、病態失認があり、同年一二月二〇日の診断記載によると立つのがしつかりしなくなり、起立位は困難とされている。

一方、本件事故による直接的外傷については、この間同年一一月二七日、亡一郎は、創部をかきむしつてしまい、再度包帯をするようになつたが、この創自体は、同年一二月二七日で治癒した(もつとも、証人藤原眞澄医師の述べる創に対する処置である「包帯交換」は死亡の日に至るまで継続されている。)。

しかし、それまでも、歩行困難や病態失認が続いており、熱が高くなり、同年一二月二八日には気管支肺炎併発と診断され、これ以降は、フオーレ・カテーテルで導尿するようになり、一旦全身状態がかなり悪化し、食事摂取不能となつて点滴で栄養を採り、相当量の抗生剤の投与を受け、間もなく、一旦持ち直して食事も採れるようになつたものの、再び平成六年一月一〇日には、食事は全介助を要し、同月一二日ころ膀胱炎を起こして、膀胱洗浄を受けるようになり、同日の血液検査結果により、肝機能障害(もつとも、肝機能障害自体は治療途中で改善がみられた。)、腎不全と診断され、寝たきり状態となり、同月二六日の診断記載によると、起立位・体動困難とされ、せん妄も出現し、同日以降褥創を生ずるようになり、また、喀痰喀出が困難となるときがあつた。同年二月には褥創が身体各所に広がり、同年三月七日には嚥下困難となり、間もなく、経口摂取不能となつて点滴のみになり、最終的に急性腎不全となつて同年四月一日死亡した。

7  藤原眞澄作成の平成六年四月一日付死亡診断書(甲第六号証の一)には、「直接死因」が「脳梗塞」で、その「発病年月日」は「平成五年一一月一九日」とされ、「発病から死亡までの期間」が「約四か月半」と記載されているけれども、右「発病年月日」が「平成五年一一月一九日」となつているのは、同日初診の趣旨であり、また、「直接死因」が「脳梗塞」とされたのは重要な疾患を記載するという同医師の診断書の書き方によるものにすぎない。

8  亡一郎の死亡は、最も直接的には、前記急性腎不全であるが、これに至る経過は、亡一郎の本件事故による創自体は、前記のとおり比較的軽微なものであつたが、かなり高齢で、軽度の多発性脳梗塞という基礎疾患があつたところへ本件事故に遭遇して受傷したため、入院を余儀なくされたものであり入院中に全身状態が悪化していき、気管支肺炎、肝機能障害、腎不全などといつた合併症を次々と起こしていつたことによるものである。

9  亡一郎の損害額は、次のとおり認められる。

(一) 治療費総額 二〇五万九八四〇円

(二) 付添看護婦費用 六六万九八七七円

(三) 入院雑費 一日一三〇〇円×一三八日=一七万九四〇〇円

(四) 立証のための必要費・事故証明書二通 一二六〇円

死亡診断書一通 五〇〇〇円

(五) 入院慰藉料 一二〇万〇〇〇〇円

(六) 死亡慰藉料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

(七) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(八) 以上合計 二五三一万五三七七円

10  前記争いのない損害填補額三一万円のほか、国民健康保険から保内郷病院に対し一〇万五三一〇円、久保田病院に対し一七五万六五五〇円が、また、大子町から、老人保険看護料として四一万四〇六〇円がそれぞれ支払われ、その総額は二五八万五九二〇円となる。

二  原告らは、本件事故と亡一郎の死亡との間には相当因果関係があると主張し被告らは、亡一郎の本件事故による受傷の程度が比較的軽いことから、右受傷と死亡との間に直接の因果関係はなく、また、直接の死因である腎不全を招来した最も重要な疾患は私病である多発性脳梗塞であつて、これと本件事故との間にも因果関係がないとして、本件事故と亡一郎の死亡との間の相当因果関係は否定されるべきであると主張する。

なるほど、前記認定のとおり、本件事故後に行われた亡一郎の頭部CT検査等からみて、亡一郎には本件事故当時既に多発性脳梗塞があつたこと、亡一郎は、九〇歳ころからは人の名前を忘れてしまうことがあつたりしたことが認められる。しかし、亡一郎は、日常生活にとくに不自由があつたわけではなく、本件事故直前まで自転車でサイクリングをしたりして元気に過ごしていたもので、現に本件事故当日も、午前中には自転車で前記の一〇四歳の友人方を訪れていたものである。亡一郎の直接的死因は急性腎不全であるが、これに至る原因は、入院期間中の全身機能の低下であつて、右全身機能の低下の直接の原因が、本件事故によつて惹起された入院及びその経過の中で発症した合併症にあることは明らかであり、前掲各証拠を総合すれば、既に多発性脳梗塞を発症していたことや、かなり高齢であつたこととあいまつて、本件事故による入院中に気管支肺炎、腎不全等の合併症を発症した経過の中で、全身状態が悪化し、回復することなく、死の転帰を辿つたものと認めるのが相当である。

右のとおりであるから、本件事故による身体に対する加害行為と亡一郎の死という発生した結果との間には、事実的因果関係があることは明らかであり、さらに、相当因果関係も認められるものというべきであるが、その損害は本件加害行為のみによつて通常発生する程度、範囲を超えるものであつて、かつ、その損害の拡大については被害者がかなり高齢であり、軽度ながら多発性脳梗塞を発症していたことなど被害者の事情も寄与しているものと認められるから加害者に損害の全部を賠償させるのは損害の負担の観点から公平を失するものといわなければならず、よつて、損害賠償額を定めるにつき民法七二二条二項を類推適用して、右損害の拡大に寄与した被害者の右事情をしん酌し、その割合を六割と認める。

三  したがつて、前記損害合計二五三一万五三七七円から、前記損害填補額二五八万五九二〇円を控除した残額である二二七二万九四五七円の四割に当たる九〇九万一七八二円(円未満切捨て)が亡一郎の被告らに対する損害賠償請求権額というべく、原告ら四名は、各々その六分の一に当たる一五一万五二九七円(円未満切捨て。総額六〇六万一一八八円)を相続したものであり、本件における事案の内容、審理の経過、認容額等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用額は七〇万円(原告一名当たり一七万五〇〇〇円)をもつて相当と認め、原告一名当たり一六九万〇二九七円の請求を認容し、その余を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本光一郎)

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